VITURE Beast徹底解説:Dr. K(東京大学博士)に聞く光学設計
新シリーズ「Engineered Reality」を開始します。
このシリーズでは、VITUREのエンジニアリングチームが、コミュニティの皆さまから多く寄せられている技術的な疑問にお答えしていきます。
第1回のテーマは「光学」。
VITURE Beastの光学設計を率いるDr. Kが、なぜVITURE Beastがここまで明るく、鮮明で、OLEDテレビのような映像体験を実現できるのかを解説します。
以下の内容は、エンジニア本人による回答をもとに、読みやすさのため一部編集したものです。
結論から言うと
VITURE Beastが他のXRグラスと大きく異なる理由は、単に高性能なパネルを搭載しているからではありません。
VITUREは、ディスプレイ、光学系、そして人の目に届く最終的な映像までを、ひとつの統合されたシステムとして設計しています。
その結果、VITURE Beastは以下のような特徴を実現しています。
色再現
各個体ごとの光学的な歪みを事前補正し、スマートフォン以上に厳格な工場出荷時カラーキャリブレーションを実施しています。
FOV+シャープネス
0.68インチの大型Sony Micro-OLEDパネルが、光学系を上回る解像力を持つことで、58°の広い視野角でも端がぼやけにくくなっています。
トラッキング安定性
視線が動いても、画面端の明るさやシャープさが落ちにくいように設計されています。
歪み補正
糸巻き型歪みを、光学層とデジタル層の両方で抑制しています。
目次
Dr. Kについて
Dr. Kは、VITUREの光学設計のリードエンジニアです。
東京大学で博士号を取得。東京大学は、光学・フォトニクス分野において世界トップクラスの研究機関のひとつであり、物理学分野でも国際的に高い評価を受けています。
また、日本は先端ディスプレイ、イメージング、マイクロオプティクス研究開発の重要拠点でもあります。そうした環境の中で、Dr. Kはパネル単体から光学システム全体までを一体で考える技術を培ってきました。
現在、Dr. KはXR分野で活躍する光学エンジニアの中でも、最上級の経験を持つ人物のひとりです。
Q1. なぜVITURE Beastは、他のXRグラスよりOLEDテレビのように感じられるのですか?
Dr. K:
OLEDテレビが美しく見える理由は、光が目に届く直前のプロセスはパネルの発光だからです。
つまり、パネルが発した映像を、何も通さずにそのまま見ているということになります。
一方で、XRグラスは根本的に異なります。
光は目に届く前に、レンズ、反射素子、偏光素子など、複数の光学要素を通過します。そして、それぞれの要素が明るさ、シャープネス、色精度を少しずつ奪っていきます。
多くの企業は、その損失を仕方のないものとして受け入れています。
しかし、私たちはそうしませんでした。
VITUREは、光学経路の全体を最適化しました。
まず、VITURE Beastには0.68インチのSony Micro-OLEDを採用しています。これは同クラス最大・最新世代のパネルです。ピクセルが大きいほど、映像を拡大した際に失われるディテールは少なくなります。たとえるなら、同じ顕微鏡でより大きな細胞を見るようなものです。より多くのディテールを確認できます。
次に、高効率な光学スタックを採用しています。私たちのレンズは、明るさ、コントラスト、色を弱めるのではなく、できる限り維持するように調整されています。
さらに、開発初期から「端から端までの画質」を重視しました。MTF、アイボックスの均一性、歪み制御を、最初から重要な設計項目として扱っています。
しかし、VITURE Beastを本当にOLEDテレビのように感じさせる最大の要素は「色」です。
そしてXRグラスにおける「色」は、テレビにおけるそれとは全く異なる課題を抱えています。
スクリーンと光学系を、ひとつのシステムとして設計する
多くの企業は、スクリーンと光学系を別々の問題として扱います。
まずパネルを調整し、その後にレンズを組み合わせる。
しかし、それは逆です。
Micro-OLEDから放たれた光は、目に届くまでに屈折、反射、偏光変調を受けます。光学系そのものがスペクトル歪みを生み、パネルの色域、ガンマカーブ、そして最終的に人が感じる色を変化させてしまいます。
これに対する私たちの解決策は、事前補正です。
光学系によって生じるスペクトル歪みを測定し、それを打ち消すようにパネルへ送る信号をあらかじめ補正します。
さらに、スマートフォン以上に厳格な工場出荷時カラーキャリブレーションを個体ごとに行うことで、それぞれのグラス固有の光学的なばらつきを補正しています。
つまり、VITURE Beastでは「パネルが出した映像をそのまま届ける」のではなく、「光学系を通過した後に最も正しく、美しく見えるように」最初から逆算して映像を設計しているのです。
ここからは、エンジニアリングというより、少しアートに近い領域になります。
リファレンスグレードの正確な色再現を目指すディスプレイもあります。一方で、一部のテレビは、より鮮やかで生き生きとした印象を与えるために、あえてガンマカーブを調整しています。
多くの人が「好ましい」と感じるカラープロファイルを作ることは、単なるスペック上の問題ではありません。カラーメーターだけでなく、画家や写真家のような「審美眼」も必要になります。
VITUREには、専属のカラーチューニングチームがあります。
映画、ゲーム、屋内、屋外、車内利用、明るさの違いなど、利用シーンごとにモード単位で調整を行い、それぞれのプロファイルがリアルでありながら、印象的に見えるよう仕上げています。
また、明るさとシャープネスも色の印象をさらに高めます。
数値上の色が同じであっても、より明るくパンチの効いた映像は、色の知覚 ー 見た目の印象を向上させるのです。
その結果、より明るく、よりパンチの効いた Micro-OLEDと、品質を損なわない光学系が組み合わさりました。
だからこそVITURE Beastは、まるでOLEDテレビが目の前に置かれているように感じられるのです。
Q2. VITURE Beastは、なぜシャープさを犠牲にせず58° FOVを実現できるのですか?
Dr. K:
FOVとシャープネスは、本来トレードオフの関係にあります。
FOVを広げるほど、画面の端はぼやけやすくなり、アイボックスは小さくなり、歪みも増えます。多くのヘッドセットは、没入感の代償として周辺部のぼやけを受け入れています。
しかし、私たちはそのトレードオフを拒否しました。
ポイントは3つあります。
1. 0.68インチの大型パネルから始めること
58°を実現するために必要な拡大率を抑えられるため、同じFOVでも収差やMTF低下を少なくできます。
2. 単なるFOVの広さよりも、シャープさを重視すること
VITUREの光学設計は、中心だけがシャープで周辺が極端にぼやけるものではありません。58°の視野全体でフラットなMTFカーブを目指しています。
3. 視野全体でアイボックスとChief Ray Angle(CRA)を最適化すること
ケラレがなく、端が暗くならず、目線を動かしても歪みが変化しにくいように設計されています。
結論として、パネルの解像力が光学系を上回っていれば、58° FOVとシャープさは両立できます。
だからこそVITURE Beastは、2Kパネルでありながら、知覚的によりシャープな映像を実現できるのです。
Q3. VITURE Beastは、ネイティブ3DoFトラッキング中でも、なぜ明るさとシャープさを維持できるのですか?
Dr. K:
業界にはよくある誤解があります。
「中心だけがシャープであれば十分。見たいものがあれば、ユーザーは頭を動かして中央に持ってくるはずだ」という考えです。
しかし、それは間違いです。
特にゲームでは、ユーザーは無意識に細かな動きをしています。頭を小さく揺らしたり、姿勢を変えたりしながら、目線だけで視野の端にあるターゲットを追うことがあります。
その瞬間に端のシャープさや明るさが落ちると、ターゲットはぼやけたり暗く見えてしまいます。それが視覚的な違和感を生み、目の疲れにつながります。
VITURE Beastは、この問題を防ぐために設計されています。
十分に広いFOV
3DoFの動きの中で、仮想映像が周辺の性能低下領域に入りにくくなっています。
MTF低下を最小限に抑制
斜め方向でも、トラッキング中のコンテンツをシャープに保ちます。
大きく均一なアイボックス
瞳孔位置がずれても、ケラレが起きにくくなっています。
視野全体でのCRA最適化
画面端の明るさが落ちにくくなっています。
その結果、3DoFの動き全体を通して、視線がどこに向いても、一貫した明るさとシャープさを維持できます。
Q4. 58° FOV全体で、糸巻き型歪みをどのように制御しているのですか?
Dr. K:
FOVが広くなり、斜め方向の角度が大きくなるほど、歪みは悪化します。
歪みは幾何学的な正確さに直接影響し、さらに色精度にも影響します。なぜなら、色収差は幾何学的な歪みに重なる形で発生するからです。
私たちは、2つの層で同時に歪みを制御しています。
マルチエレメントによる完全補正光学スタック
中心だけでなく、視野全体で残留歪曲収差を低く抑えるよう設計しています。
大型パネルと適度な拡大率
0.68インチMicro-OLEDは、58°を実現するために過度な拡大を必要としないため、補正前の段階から歪みやCRAの負担を抑えられます。
事前歪み補正/デジタル歪み補正
残った糸巻き型歪みは、レンダリング画像をあらかじめ逆方向に歪ませることでデジタル補正します。これは、適切に調整されたXRパイプラインでは標準的な手法です。
CRA最適化
瞳孔位置が変わっても上記の補正が有効に働くようにし、目線移動時に歪みがずれることを防ぎます。
結論として、VITURE Beastで歪みが気にならないのは、光学層とデジタル層の両方で歪みを抑え込んでいるからです。
VITURE Beastは、現時点で非常に完成度の高いXRグラスですが、いくつか事前に把握しておきたいポイントもあります。
まず、グラス単体では6DoFトラッキングには対応していません。空間内により自由度の高い表示を求める場合は、Luma Ultraのような6DoF対応モデルを選ぶ必要があります。なお、VITURE Beastについても、今後SpaceWalkerを通じて6DoF機能の解放が提供されています。
また、58°という広い視野角の端部において、わずかな色収差が見られる場合があります。これは、より広い視野角を実現するうえで生じるトレードオフのひとつです。
加えて、VITURE Beastは従来モデルに搭載されていた視度調整ダイヤルを備えていません。そのため、近視や乱視のある方は、必要に応じて度付きレンズを装着して使用する必要があります。
一方で、VITURE Beastの製品版には専用レンズフレームが無料で同梱されます。これまでは別途購入が必要だったレンズフレームが標準付属となるため、ご自身の視力に合わせて度付きレンズを用意することで、より快適にお使いいただけます。
視力に合わせた調整を行うことで、VITURE Beastが持つ高精細な映像美を最大限に引き出し、妥協のない視聴体験をお楽しみいただけます。
そのほか、接続先デバイスのバッテリー消費が比較的早い点にも注意が必要です。長時間使用する場合は、充電環境を用意しておくと安心です。
なお、フロントRGBカメラを活用したAI関連機能についても、今後順次展開予定です。現時点では一部機能がまだ展開途中である点も、あらかじめ理解しておきたいポイントです。
Engineered Realityについて
Engineered Realityは、実際にVITURE製品を作っているエンジニアたちが、皆さまが装着しているグラスの裏側にある設計思想を解説する新シリーズです。
スペックシート上の数値が、どのようなトレードオフ、判断、物理法則を経て、実際に装着できる製品になるのかをお伝えしていきます。
今後は、アルゴリズム、オーディオ、熱設計、工業デザインなども取り上げていく予定です。
RedditでDr. Kに質問を投稿することもできます。Dr. K本人が u/VITURE_Opticsにて確認しています。